かれていたことに気づいたようなものだった。それを彼は泣いた。もう夜も眠れなかった。たえず苦しんだ。みずから自分をとがめた。もう自分には判断ができなくなったのか? 自分はまったく馬鹿になってしまったのか? 否々、晴れやかな日の麗わしさは、いつもよりずっとよく眼にはいった。人生のみごとな豊富さは、いつもよりずっとよく感ぜられた。彼の心は少しも彼を欺いてはいなかった。
なお長らく彼は、自分にとって最もりっぱな人々、最も純粋な人々、聖者中の聖者とも言うべき人々、そういう楽匠にはあえて手を触れなかった。彼らにたいしていだいてる信仰が傷つけられはすまいかと恐れた。しかしながら、最後まで突進して、たとい苦しみを受けようとも、事物の真相を見きわめんと欲する、誠実な魂の仮借《かしゃく》なき本能には、どうして抵抗することができよう?――で彼はついに神聖なる作品をひらいた。最後の予備隊、近衛《このえ》兵……をもくり出した。そして一目見ると、それらもやはり他の作品と同じく無瑾《むきず》ではなかった。彼は読みつづけるだけの勇気がなかった。時々、読みやめては本を閉じた。彼はノアの息子《むすこ》のように、父親の裸
前へ
次へ
全527ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング