感じた。果たして笑い声が聞こえた。客間の奥をながめると、皮肉な憐憫《れんびん》の言葉をそばの人たちとかわしながら喧嘩《けんか》を見守《みまも》ってる姫の姿が、霧の向こうにあるようにぼんやり眼にはいった。それ以来彼は、何が起こってるかという正確な意識を失った。大公爵は叫んでいた。クリストフは何を言ってるのかみずから知らないで、いっそう高く叫んでいた。秘書官とも一人の役人とが彼の方へやって来て、彼を黙らせようとつとめた。彼は二人を押しのけた。背中でよりかかっていた家具の上から、機械的に一つの灰皿《はいざら》をつかみ取って、口をききながら振り回した。秘書官の言ってる言葉が耳にはいった。
「さあ、それを放したまえ、それを放したまえ……。」
 そして自分が叫んでる取り留めもない言葉や、灰皿でテーブルの縁をたたいてる音などが、耳にはいった。
「出て行け!」と大公爵はひどく猛《たけ》りたって喚《わめ》いた。「出て行け、出て行け。追い出してやるぞ!」
 将校らは大公爵のそばに来て、彼を鎮《しず》めようと試みていた。卒中症の大公爵は、両眼をむき出しながら、この無頼漢をつき出せと叫んでいた。クリストフは眼
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