も憲兵も、殿下についてはしない。……そしたら、どうです、殿下から何が残りますかって。」
 善良なルイザは、すべてを本気に取って、天に両腕を差し上げた。
「そんなことを言ってはいけません!……お前さんは狂者《きちがい》だ、狂者《きちがい》だ……。」
 彼は母の信じやすいのにつけ込んで、心配さして面白がった。けれどしまいには、無法な言葉があまりすぎたので、ルイザはからかわれてることに気づいた。彼女は背を向けた。
「ほんとに、しようのない人だ。」
 彼は笑いながら母を抱擁した。素敵もない機嫌《きげん》だった。散歩してるうちに彼は、りっぱな楽旨《テーマ》を見出したのだった。水中の魚のように、その楽旨が自分のうちに踊ってるのを感じていた。食事をしないうちは、官邸へ出かけようとしなかった。餓鬼のように貪《むさぼ》り食った。それからルイザは彼の身ごしらえを監督した。彼がまた彼女をじらし始めたからである。すり切れた服と埃《ほこり》だらけの靴《くつ》のままで構わない、と言い出した。それでも彼は鶫《つぐみ》のように口笛を吹いて管絃楽の各楽器を真似《まね》ながら、自分で服を着替え靴をみがいた。それが済むと、
前へ 次へ
全527ページ中250ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング