クリストフは呆気《あっけ》に取られて聞いていた。実際、感嘆すべき点が多かった。コリーヌ自身も、自分の言葉を聞きながら感嘆していた。過去の生活の困難だったのについて前日クリストフに話したことなんかは、すっかり忘れてしまっていた。彼も同様にそんなことは思い出してもいなかった。
けれどもコリーヌは、自分の祖国をドイツ人に愛させようと努めてるばかりではなかった。自分自身をも愛させようと望んでいた。親昵《しんじつ》のない一晩は、彼女にとってはしかつめらしくやや滑稽《こっけい》に思われたに違いない。彼女はクリストフにふざけないではおかなかった。しかしそれは徒労だった。彼はさらに気づかなかった。彼は親昵のなんたるやを知らなかった。彼は愛するか愛しないかであった。愛しない時には、恋愛のことなんかは頭にも浮かべなかった。彼はコリーヌにたいして、強い友情をいだいていた。彼にとってはいかにも珍しい南欧人の性質、そのやさしい愛嬌《あいきょう》、その晴れ晴れとした気分、その活発自由な知力に、彼は魅せられていた。そこにはもちろん、愛するためにあり余るほどの理由があった。しかし「人の心の風は己《おの》がままに
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