形をなしてることもあったが、多くは、一つの作品全部を包み込む大きな星雲の形をなしていた。その楽曲の結構は、主要の筋道は、彫刻的の明確さで影から浮き出してる眩《まばゆ》いばかりの楽句を、ところどころに鏤《ちりば》めた覆《おお》いを通して、おのずから見えていた。それは一つの閃光《せんこう》にすぎなかった。また時とすると、相次いで多くの閃光が起こることもあって、各閃光は暗夜の各すみずみを照らした。しかし普通は、その気まぐれな力は、いったん不意に現われたあとに、輝いた尾をあとに残しながら、おのれの神秘な隠れ家の中に消え失《う》せて、数日姿を現わさなかった。
 そういう霊感《インスピレーション》の悦《よろこ》びは、クリストフに他のすべてをきらわしたほど熾烈《しれつ》なものだった。経験に富んだ芸術家は、霊感はまれなものであることを知っており、直覚の作品を完成するには理知にまつべきものであることを、よく知っている。彼はおのれの観念を搾木《しぼりぎ》にかけ、それに含んでる醇良《じゅんりょう》な汁《しる》を、最後の一滴までも滴《したた》らせる。――(時によっては白水を割ることさえも辞さない。)――しかし
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