間、雷鳴が準備される。燃え立った入道雲が、白けた空にかかっている。一陣の風もない。澱《よど》んだ空気が発酵して、沸きたっているように見える。大地は茫然《ぼうぜん》として沈黙している。頭脳は、熱にとどろいている。全自然は、蓄積された力の爆発を待ち、重々しく振り上げられ、黒雲の鉄碪《かなしき》の上に一挙に打ちおろされんとする、鉄槌《てっつい》の打撃を待っている。陰惨な熱い大きな影が通り過ぎる。熱火の風が吹き起こる。全身の神経は、木の葉のようにうち震える。――それから、また沈黙が落ちてくる。空はなお雷電を醸《かも》しつづける。
かかる期待のうちには、一つの歓《よろこ》ばしい苦悶《くもん》がある。不安に押えつけられながらも、人はおのれの血脈中に、宇宙を焼きつくす火が流れるのを感ずる。醸造|樽《だる》中の葡萄《ぶどう》の実のように、飽満せる魂は坩堝《るつぼ》の中で沸きたつ。生と死との無数の萌芽《ほうが》が、魂を悩ます。何が生じて来るであろうか? 魂は姙婦のように、自分のうちに眼を向けて口をつぐみ、胎内の戦《おのの》きに気づかわしげに耳傾ける。そして考える、「私から何が生まれるであろうか?」時に
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