らはクリストフの人物を知っていた。彼の能力や彼の短気なことを知っていた。それでただ数人の者が、彼のように天分のある作曲家が天職でもない方面に迷い込むのは遺憾だという旨を、控え目に発表したにすぎなかった。いかなる意見をいだいていたにせよ(彼らが一つの意見をもったとして、)彼らはクリストフにも、自分を批評されることなしにすべてを批評し得るという批評家の特権を、尊重していたのである。しかしクリストフが、批評家をつないでいる暗黙の因襲を乱暴にも破るのを見た時、彼らはただちにクリストフをもって、一般秩序の敵であると見なした。一青年が国民的光栄をになってる人々にたいしてあえて敬意を失することは、だれにも皆いまいましいことに思われた。そして彼らはクリストフにたいして、猛烈な戦いを始めた。それは長い論説や引きつづいた論争ではなかった。――(自分より武装の優《まさ》ってる敵にたいすると、彼らはみずから進んでそういう陣地で戦おうとはしない。新聞記者というものは、敵の理論を眼中に置かずにまたそれを読みもしないで、議論を戦わし得るという特殊な才能をもってるものではあるが。)――彼らは長い経験から教えられていた、一新聞の読者は常にその新聞と同意見であるから、論争するようなふうを見せることだけでも、すでに読者の信用を弱めることになると。それゆえ断定しなければならなかった、あるいはさらに上策としては、否定しなければならなかった。(否定は断定の二倍の力をもっている。それは重力の法則の直接的結果である。石を空中に投げ上げるよりも、それを落下させる方がはるかに容易である。)で彼らは好んで、不誠実な皮肉な侮辱的な小文の方法に頼って、それを毎日|倦《う》むことなき執拗《しつよう》さをもって、適当な場所にくり返し掲載した。いつもそれと名ざされてはいなかったが、しかし明らかにわかるようなやり方で、横柄《おうへい》なクリストフが嘲笑《ちょうしよう》されていた。クリストフの言は変化されて、馬鹿げたものになされていた。報ぜられてるクリストフの逸話は、時とすると端緒だけがほんとうのこともあったが、しかしその他はすべてこしらえ物で、全市の人々との間を不和になすために、またさらに宮廷との間を不和になすために、巧みに細工されたものであった。また人身攻撃にまでわたって、彼の顔立ちや服装《みなり》などが悪口され、その漫画が一つ作られていたが、幾度もくり返し掲載されたために、ついには彼に似てると一般に思われるようになった。

 それらのことはクリストフの友人らにとっては、もし彼らの雑誌が戦いの飛沫《ひまつ》を受けさえしなかったならば、別になんでもないことだったろう。実際のところ、それは雑誌の広告だった。同人らは雑誌を争論の渦中《かちゅう》に投げ出そうとはせずに、むしろ雑誌をクリストフから引き離そうと思った。彼らは雑誌の評判が傷つけられるのに驚いた。そしてもし注意しなければ、少なくとも編集の方において、遺憾ながら同等の責任を帯ぶるの余儀なきにいたるだろうということが、次第にわかってきた。アドルフ・マイとマンハイムにたいするまだかなり手緩《てぬる》い攻撃が始められただけで、蜂《はち》の巣をつついたような騒ぎになった。マンハイムは面白がった。このことは、父や叔父《おじ》たちや従兄弟《いとこ》たちや数多《あまた》の親戚《しんせき》など、彼がなすことをすべて監視しそれをいまいましく思うのを自分の権利だとしてる連中を、たぶんは立腹させるかもしれないと思った。しかしアドルフ・マイは本気に考えて、雑誌の評判を悪くすることをクリストフに非難した。クリストフは手きびしく撃退した。他の同人らは、害を被らなかったので、いつも皆にたいして首領らしい振舞いをしていたマイが皆の代わりに一本やられたことを、かえっておかしがった。ワルトハウスはひそかに愉快がった。喧嘩《けんか》があればかならず頭を割られる者も出て来る、と彼は言った。もとよりそれは自分の頭を除外した意味でだった。家柄から言っても交友から言っても、自分は打撃を受けないですむと思っていた。そして同人のユダヤ人らが多少いじめられても、別に不都合はないと考えていた。エーレンフェルトとゴールデンリンクとは、まだ害は被らなかったが、多少の攻撃に狼狽《ろうばい》するような者ではなかった。彼らは答え返すことができるのだった。彼らにとってそれよりはるかに手痛いことは、クリストフが頑固《がんこ》に議論をつづけるために、友人らことに女の友人らとの仲が、妙に不和になることであった。彼らは最初の論説を見ると、ごく愉快になって面白い狂言だと思った。クリストフの破竹の勢いを感嘆した。そしてただ一言忠告さえすれば、彼の争闘的な熱気を和らげることができ、あるいは少なくとも、自分らが名ざす男や
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