彼らがより多く個性をそなえてるというのではなかった。否おそらく個性はより少なかったであろう。しかしながら彼らは、どこへ行ってもまたいつでもそうであるが、この小都市においても――異民族であるがために、数世紀来孤立してきて嘲笑的な観察眼が鋭利にされているので――最も進んだ精神の所有者であり、腐蝕《ふしょく》した制度や老朽した思想の滑稽《こっけい》な点に最も敏感な精神の所有者であった。ただ、彼らの性格は彼らの知力ほど、自由でなかったので、彼らはそれらの制度や思想を冷笑しながらも、それらを改革することよりむしろ、それらを利用することが多かった。彼らはその独立|不羈《ふき》の信条にもかかわらず、紳士アダルベルトとともに、田舎《いなか》の小ハイカラであり、富裕無為な息子《むすこ》さんたちであって、娯楽や気晴らしのつもりで文学をやってるのであった。彼らはみずから尊大なふうをして喜んでいたが、人のよい威張りやにすぎなくて、若干の無害な人々、もしくは自分たちを決して害し得ないと思われる人々、などにたいしてしか尊大ぶりはしなかった。他日自分たちがはいってゆき、昔攻撃したあらゆる偏見と妥協しながら、世間普通の生活を静かに営むようになるだろうとわかってるような社会とは、葛藤《かっとう》を結ぶ気はさらになかった。そして、いよいよ戈《ほこ》を揮《ふる》いもしくは弁を揮わんとし、現在の偶像――それもすでに揺ぎ始めてる――にたいして、騒々しく出征の途にのぼらんとする時には、いつも自分の船を焼かないだけの用心をしていた。危険な場合にはまた船に乗り込むのだった。それにまた、戦いの結果がどうであろうとも――戦いが済みさえすれば、また戦いが始まるまでには十分長い時間があった。敵のフィリスチン人は静かに眠ることができた。新しいダヴィデ派が求めていたところのものは、なろうと思えば恐るべき者にもなり得るのだということを、敵に信ぜさせることであった。――しかし彼らはなろうと思っていなかった。芸術家らと懇意にし、女優らと夜食をともにする方を、彼らはより多く好んでいた。
クリストフは、その仲間にはいると勝手が悪かった。彼らの話は、女や馬に関することが多かった。しかも厚かましい話し方をしていた。彼らはひどく形式張っていた。アダルベルトは、白々《しらじら》しいゆるやかな声音で、みずから退屈し人を退屈させる上品なていねい
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