書けるよ。それに、批評家になればあらゆる権利をもつんだ。公衆にたいしては遠慮はいらない。公衆はこの上もなく馬鹿なものだ。芸術家というのもつまらないものだ。人から非難の口笛を吹かれても仕方はない。しかし批評家というものは、『彼奴《あいつ》を罵倒《ばとう》しろ!』と言うだけの権利をもっている。観客は皆思索の困難を批評家に委《ゆだ》ねてるんだ。君の勝手なことを考えればいい。少なくとも何か考えてる様子をすればいい。それらの鵞鳥《がちょう》どもに餌《え》を与えてやりさえすれば、それがどんな餌だろうと構わない。奴《やつ》らはなんでも飲み込んでしまうんだ。」
 クリストフは心から感謝しながら、ついに承諾してしまった。そしてただ、何を言っても構わないということを条件とした。
「もちろんさ、もちろんさ。」とマンハイムは言った。「絶対の自由だ! われわれは各人皆自由なんだ。」

 マンハイムは、その晩芝居がはねた後、三度劇場へやって来て彼を連れ出し、アダルベルト・フォン・ワルトハウスや他の友人らに、彼を紹介した。彼らは彼を懇《ねんご》ろに迎えた。
 土地の古い貴族の家柄であるワルトハウスを除けば、彼らは皆ユダヤ人であって、そして皆すこぶる富裕だった。マンハイムは銀行家の息子《むすこ》、ゴールデンリンクは有名なぶどう園主の息子、マイは冶金《やきん》工場長の息子、エーレンフェルトは大宝石商の息子だった。彼らの父親らは、勤勉|強靭《きょうじん》な古いイスラエル系統に属していて、その民族的精神に執着し、強烈な精力をもって財産を作り、しかもその財産よりその精力の方をより多く享楽していた。ところが息子らは、父親らが建設したものを破壊するために生まれたかの観があった。家伝の偏見と、勤倹貯蓄な蟻《あり》のような性癖とを、嘲笑《ちょうしょう》していた。芸術家を気取っていた。財産を軽蔑《けいべつ》して、それを投げ捨てるようなふうをしていた。しかし実際においては、その手から金が漏れ落ちることはほとんどなかった。彼らはいかに馬鹿な真似《まね》をしようとも、精神の明晰《めいせき》と実際的の能力とをまったく失うほどには決していたらなかった。そのうえ、父親らはそれを監督して、手綱を引きしめていた。中で最も放縦なマンハイムは、もってる物をことごとく本気で濫費したろうけれど、しかし彼はかつて何かをもってることがなかった
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