にそうだった。マンハイムはいつも自分の逆説をみずから面白がり、弁難から弁難へわたって、ついには自分で内心おかしいほどの、途方もない駄弁《だべん》にふけってばかりいたので、人から真面目《まじめ》に聞いてもらうようなことは滅多になかった。ところが今クリストフが、自分の詭弁《きべん》を論議せんとしまたはそれを理解せんとして、いたく骨折ってるのを見ると、すっかりうれしくなった。そして冷笑しながらも、クリストフから重視されてるのを感謝した。彼はクリストフを滑稽《こっけい》なまた愛すべき男だと思った。
二人はきわめて親しい間柄になって別れた。そして三時間後に、芝居の試演の時、管弦楽団の席に開いてる小さな扉《とびら》から、マンハイムの※[#「口+喜」、第3水準1−15−18]々《きき》とした引きゆがめられた顔が現われて、ひそかに合図をしてるのを見て、クリストフは多少びっくりした。試演がすむと、クリストフはその方へ行った。マンハイムは親しげに彼の腕をとらえた。
「君、少し隙《ひま》があるだろうね。……まあ聞きたまえ。僕はちょっと思いついたことがある。多分君はばかなことだと思うかもしれないが……。実は、一度、音楽に関する、三文音楽家らに関する、君の意見を書いてくれないかね。木片を吹いたりたたいたりするだけの能しかない、君の仲間のあの四人の馬鹿者どもに向かって、無駄《むだ》に言葉を費やすより、広く公衆に話しかける方がいいじゃないか。」
「その方がいいとも! 望むところだ!……よろしい! だが何に書くんだい? 君は親切だね、君は!……」
「こうなんだ。僕は君に願いたいことがあるんだが……。僕らは、僕と数人の友人――アダルベルト・フォン・ワルトハウス、ラファエル・ゴールデンリンク、アドルフ・マイ、ルツィエン・エーレンフェルト――そういう連中で、雑誌を一つこしらえてるんだ。この町での唯一の高級な雑誌で、ディオニゾスと言うんだ。……(君も確か知ってるだろう。)……僕らは皆君を尊敬してる。そして君が同人になってくれれば、実に仕合わせだ。君は音楽の批評を受け持ってくれないか?」
クリストフはそういう名誉に接して恐縮した。彼は承諾したくてたまらなかった。しかしただ自分の力に余る役目ではあるまいかと恐れた。彼は文章が不得手だった。
「なに心配することはない、」とマンハイムは言った、「確かにりっぱに
前へ
次へ
全264ページ中44ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング