|褪《あ》せた朝顔の実にさしてる光線のように、息子の微笑みはその夢想に、一条の輝いた反映を投じていた。
 かくして、彼は母を置きざりにしたのであった――一生の間。

 十月の夕《ゆうべ》。青白い冷やかな太陽。懶《ものう》げな田舎《いなか》はまどろんでいる。村々の小さな鐘が、野の沈黙のうちにゆるやかに鳴っている。耕作地のまん中から、数条の煙が徐ろに立ち上っている。こまやかな靄《もや》が遠くに漂っている。ぬれた地面を覆《おお》っている白い霧が、夜の来るを待って立ち上ろうとしている……。一匹の猟犬が、地面に鼻をすれすれにして、甜菜《てんさい》の畑の中を駆け回っていた。小鳥の群れが幾つも、薄暗い空に舞っていた。
 クリストフは夢想にふけりながら、目当ても定めずに、しかも本能的に、一定の方向へ歩いていた。数週間以来、彼の散歩は、ある村の方へ向かいがちだった。そこへ行けばきっと、一人の美しい娘に出会うのだった。彼はその娘に心ひかれていた。それは単に好きだというにすぎなかったが、しかしごく強い多少不安な好き方だった。クリストフはだれかを愛せずにはほとんどいられなかった。彼の心はめったにむなしいことがなかった。偶像たるべき何かの美しい面影が、いつもすえられていた。愛してることをその偶像から知られるか否かは、多くの場合どうでもいいことだった。彼に必要なのは愛することだった。心の中が決してまっくらにならないこと、それが必要だった。
 こんどの新しい炎の対象は、ある農家の娘だった。エリエゼルがレベッカに会ったように、彼は彼女に泉のそばで会った。しかし彼女は彼に水を飲めとは言わなかった。彼の顔に水をはねかけたのだった。小川の岸のくぼんだ所、巣のように根を張ってる二本の柳の間に、彼女は膝《ひざ》をついて、勇敢にシャツを洗っていた。その舌も腕に劣らず活発だった。小川の向こう岸でせんたくをしている他の村娘たちと、盛んに談笑していた。クリストフは数歩離れて、草の上に寝そべっていた。そして両手に頤《あご》をのせて、彼女らをながめていた。彼女らはほとんどきまり悪がりもしなかった。時とすると生意気に聞こえる調子でしゃべりつづけていた。彼はあまり耳にも止めなかった。せんたく板の音や牧場の牛の遠い鳴き声などに交ってる、彼女らの笑い声の響きばかりを聞いていた。そして彼は、一人の美しい娘から眼を離さないで、ぼん
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