ストフは勇気を振るい起こして、老母の手に自分の手をのせて言った。
「お母さん、私は少しお話ししたいことがあるんです。」
ルイザははっとした。しかしにこやかな様子をしようとつとめながら、答えた――喉《のど》をひきつらして。
「どういうことですか。」
クリストフは口ごもりながらも、出発の意志を告げた。彼女はいつものとおり、それを冗談にして話をそらそうとした。しかし彼は気色を和らげないで、こんどはいかにも思い込んだ真面目《まじめ》なふうで言いつづけたので、もはや疑う余地はなかった。すると彼女は口をつぐみ、血の流れも止まり、無言のまま冷たくなって、怖《お》じ恐れた眼でじっと彼をながめた。そして非常な苦悶《くもん》の色が彼女の眼に上ってきたので、彼の方でも言葉が出せなくなった。そして二人とも默っていた。ついに彼女はほっと息をつくとともに、言った。――(その唇《くちびる》はふるえていた。)
「そんなことがお前……そんなことが……。」
大粒の涙が二つ彼女の頬《ほお》に流れた。彼はがっかりしてわきを向き、両手に顔を隠した。二人は泣いた。しばらくしてから、彼は自分の室にはいって、翌日まで閉じこもった。二人はもはやそのことを口先へも出さなかった。そして彼がなんとも言わないので、彼女は彼がその計画をやめたのだと信じようとした。それでもやはりたえず気にかかった。
そのうちに、彼はもう黙っておれなくなった。たとい彼女に断腸の思いをさせることになろうとも、ぜひとも話さなければならなかった。彼はあまりに苦しかったのだ。自分の苦しみにたいする利己心は、彼女に苦しみをかけるという考えに打ち克《か》った。彼は口を開いた。心が乱されるのを恐れて母を見ないようにしながら、終わりまで言い進んだ。もう二度と言い合うことがないように、出発の日まで定めた。――(この次になったら、今日ほどの悲しい勇気が出るかどうか、自分でもわからなかった。)――ルイザは叫んでいた。
「いえ、いえ、そんなことを言ってはいけません!……」
彼は身を堅くして、厳然たる決心をもって言いつづけた。言い終えると――(彼女はすすり泣いていた)――彼は彼女の手を取って、自分の芸術のため生命のためには、しばらく出かけることがいかに必要であるかを、彼女に了解させようとつとめた。彼女は聞くことを拒み、涙を流し、そしてくり返していた。
「いえ、
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