、敷居のところに立ち止まって、クリストフをながめていた。クリストフは口を休めずに食べながら、盛んな冗談ばかり言っていた。彼女は腰に手をついて、大笑いをしていた。皆愉快だった。彼らの幸福のうちには、ただ一つの黒点しかなかった。ポットペチミットがいないことだった。彼らはしばしばそのことをくり返し言った。
「ああ、彼がいたら! 食べるのは彼に限る。飲むのは彼に限る。歌うのは彼に限る。」
彼等は賛辞をやめなかった。
「クリストフに彼の歌を聞かせることができたら!……いやたぶんできるだろう。ポットペチミットは夕方帰ってくるかもしれない、遅《おそ》くとも今夜は……。」
「え、今夜僕はもう遠くに行ってますよ。」とクリストフは言った。
シュルツの輝いていた顔は曇った。
「なに、遠くに!」と彼は震える声で言った。「いや、発《た》ってはいけません。」
「発つんです。」とクリストフは快活に言った。「夕方また汽車に乗るんです。」
シュルツは落胆した。クリストフを幾晩も泊めるつもりだった。彼は口ごもった。
「いや、いや、そんなことはない!……」
クンツはくり返した。
「そしてポットペチミットが!」
クリストフは二人をながめた。彼らの善良な懇切な顔に浮かんでる失望の色に、彼は心を動かされた。彼は言った。
「あなた方はほんとにいい人たちだ。……明日の朝|発《た》つことにしましょう。それでどうです?」
シュルツは彼の手を取った。
「ああ、よかった!」と彼は言った。「ありがとう、ありがとう!」
彼は子供のようになっていて、明日はいかにも遠く思われ、考えも及ばないほど遠く思われた。クリストフは今日発ちはしないし、今日じゅうは自分たちのものであり、一晩じゅういっしょにすごし、同じ屋根の下に眠るのだ。それだけのことをシュルツは思っていた。それから先はもうながめたくなかった。
ふたたび快活になった。シュルツば突然立ち上がり、おこそかな様子をした。この小さな町と自分のささやかな家とを訪れてきてくれて、無上の喜びと名誉とを得さしてくれた賓客にたいし、感動した仰山《ぎょうさん》な祝杯を挙げた。喜ばしい彼の再来、彼の成功、彼の光栄、地上のあらゆる幸福、などを心から希望して、杯を干した。それから、「高尚なる音楽」のためにまた杯を挙げ――さらに、老友のクンツのために――さらに、春のために――そしてまたポ
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