ストフが挨拶《あいさつ》をしてる鳥に拳固《げんこ》をさしつけ、この馬鹿者を、この腹声の化《ば》け物を、もって行っちまえと怒鳴ってるのを見た時、彼は生涯初めて、その音が実際たまらないものであることを感じた。そして椅子《いす》をもっていって、その邪魔物を取りはずすために上に登ろうとした。しかし彼は落ちかかった。クンツは彼がまた椅子に登ろうとするのをとめた。彼はザロメを呼んだ。彼女はいつものとおりゆっくりやって来て、クリストフが我慢をしかねて自分で取りはずした掛時計を、腕に渡されるのを見て、呆気《あっけ》に取られた。
「これをどうせよとおっしゃるんですか。」と彼女は尋ねた。
「勝手にするがいい。もってゆけ。もう二度と見せるな。」クリストフと同じく短気にシュルツは言った。
 彼はその厭《いや》な音をどうしてこう長く我慢できたかみずから怪しんでいた。
 ザロメは確かに皆は気が狂ったのだと思った。
 音楽はまた始まった。幾時間かたった。ザロメがやって来て、午餐《ごさん》の支度《したく》ができたことを知らした。シュルツは彼女を黙らした。彼女は十分後にまたやって来、それからふたたび、十分後にまたやって来た。こんどは、ひどく怒っていた。癇癪《かんしゃく》を起こしながら、しかも平気なふうを装《よそお》おうとつとめながら、室のまん中につっ立った。シュルツが絶望的な身振りをしたのにも構わず、らっぱのような声で尋ねた。
 ――皆様は、冷たい食事と熱い食事と、どちらを召し上がりたいのであるか。彼女の方は、どちらでも構わない。お指図を待ってるばかりである。
 シュルツはそのやかましい小言《こごと》に当惑して、彼女をひどくやっつけてやりたかった。しかしクリストフは笑い出した。クンツもその真似《まね》をした。そしてシュルツもついに同じく笑い出した。ザロメはその結果に満足して、あたかも後悔してる人民どもを許してやる女王のような様子で、踵《くびす》をめぐらして出て行った。
「これは元気な女だ!」とクリストフは言いながらピアノから立ち上がった。「彼女の言うところはもっともだ。演奏中にはいって来る聴衆ぐらいたまらないものはない。」
 彼らは食卓についた。非常に嵩《かさ》の多い滋養に富んだ食事であった。シュルツがザロメの自負心をおだてたのだった。彼女は何か口実さえあれば自分の腕前を見せたがっていた。そしてその
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