心との中における愛欲の眼覚《めざ》め、と名づける所のものであった。しかしそれはあたかも、各局部で亀裂《きれつ》し死滅しまた蘇《よみがえ》る全存在のこの恐るべき危機を、あたかも、信仰も思想も行為も全生命もすべてが、苦悶《くもん》と喜悦との痙攣《けいれん》の中で将《まさ》に絶滅せられ鍛え直されんとしてるかと思われるこの大革命を、児戯に等しいものだと見なし得るかのような名づけ方である。
 彼の身体も魂も発酵しきっていた。彼は好奇心と嫌悪《けんお》の情との交り合った気持でそれをながめるだけで、それとたたかうだけの力はなかった。彼は自分のうちに何が起こってるか少しも了解しなかった。彼の全存在はばらばらになっていた。圧倒してくる懶《ものう》さのうちに日々を過した。働くことは一つの苦痛となった。夜は、重苦しい切れ切れの眠りをし、恐ろしい夢をみ、欲望に駆られた。獣的な魂が彼のうちにあばれていた。熱く燃えたち、汗に浸って、彼はおのれを嫌忌の情でながめた。狂気じみた淫《みだ》らな考えを振り落そうとつとめた。狂人になったのではないかしらとみずから尋ねてみた。
 昼間もそういう獣的な考えからのがれることができ
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