て、彼女はまったく荒唐|無稽《むけい》なつきない話を作りだしていた。馬鹿な作り話だとは自分でも知っていたが、しかしそう認めたくなかった。幾日もの間、仕事の上にかがみ込みながら、みずから自分をだまかしては喜んでいた。そのためにしゃべることを忘れてしまった。彼女の言葉の波は彼女のうちに潜んでしまって、あたかも河が突然地面の下に流れ込んだようなものだった。しかしその補いはついていた。無言の話の、会話の、なんという耽溺《たんでき》だったろう! 時としては、書物を読む時その文字の意味を理解するために、一音一音口の中で言ってみなければ承知しない人のように、彼女の唇《くちびる》の動くのが見えることもあった。
 そういう夢から覚《さ》めると、彼女はうれしくもありまた悲しくもあった。実際の事情は、今自分が心の中で語ったとおりではないことを、彼女はよく知っていた。しかし幸福の反映がまだ彼女のうちに残っていた。そして彼女はまたいっそう頼もしい心地《ここち》で生活しだした。クリストフを得られないと絶望してはいなかった。
 彼女はそれとはっきりした心でではなかったが、クリストフを得ようと企てた。この無器用な小娘
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