すと、堪えがたい苦痛を感じて、卒倒しそうだった。眩暈《めまい》がしていた。死ぬのではないかと思った。死んでしまいたかった。と同時に、全身の力をあげて生きたく、前途に見えてる幸福のために生きたかった。ついに母がやって来た。やがて家じゅうの者が心痛しだした。彼女は例のとおりしかられ、包帯をされ、寝かされ、肉体の苦痛と内心の喜びとに浮かされて惘然《ぼうぜん》となった。楽しき夜……そのなつかしい一夜の些細《ささい》な思い出まで皆、彼女には聖《きよ》められたものとなった。彼女はクリストフのことを考えてはいなかった。何を考えてるかみずから知らなかった。幸福であった。
 クリストフはその出来事に多少責任があると思ったので、翌日、容態を尋ねに来た。そして初めてやさしい様子を彼女に示した。彼女はしみじみとそれを感謝し、怪我《けが》をありがたがった。生涯そんな喜びが得らるるなら、生涯苦しんでもいいと希った。――彼女は身動きもしないで数日間寝ていなければならなかった。その間祖父の言葉をくり返し、それを考え回して過した。なぜなら疑問が出て来たから。
「……になるだろう、」と祖父は言ったのかしら?
「……になれ
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