むすこ》が家庭から逃げ出してしまった今となっては、も一人の息子も彼女の手を離れ得るらしい今となっては、働く勇気をすべて失ってしまっていた。疲れはててぼんやりし、意力も鈍りきっていた。働きづめの人々が、生活の峠を越して、不意の打撃から働く理由をすべて奪われてしまうと、往々神経衰弱の危機に襲われるものであるが、彼女もそういう危機にさしかかっていた。彼女はもはやあらゆる元気を失っていて、編みかけの靴下を仕上げることもできず、かき回した引き出しを片付けることもできず、窓を閉《し》めに立上ることもできないほどだった。じっとすわり込んで、ぼんやりし、がっかりしていた――ただ思い出にふけるばかりで。彼女は自分の衰頽《すいたい》に気づいていた。それを恥じていた。そして息子《むすこ》にそれを隠そうとつとめた。クリストフは利己的に自分の苦しみにばかり没頭して、何にも気づかなかった。もちろん彼は、そのころ母が口をきくにも、ちょっとしたことをするにも、非常にぐずぐずしているのにたいして、ひそかにじれてはいた。しかし、母のいつもの活発な様子がいかに変っていたにせよ、それを気にかけてはいなかった。
がその日、彼
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