て、いいこときり覚えてはいなかった。結婚の事柄は、生涯の最も大きな物語となっていた。メルキオルの方は出来心から落ち込んだのであって、すぐに後悔したとはいえ、彼女の方では心を籠《こ》めてのことだった。自分が向うを愛してると同じに、自分も向うから愛せられてると思っていた。そしてメルキオルにたいして、しみじみとした感謝の念をいだいていた。その後メルキオルの心がどうなったかは、了解しようともつとめなかった。彼女はあるがままの現実を見ることができなくて、ただあるがままに現実を堪え忍ぶことだけを知っていた。生活のために生活を理解する必要を持たない謙虚な善良な婦人として。自分で説明のつかない事柄は、神にその説明を任していた。メルキオルやその他の人々から受けるあらゆる不正はすべて、妙な信仰の心から、その責任を神に転嫁さして、自分の受ける善ばかりを彼らには帰していた。それゆえその悲惨な生存も、彼女にはなんら苦《にが》い思い出を残してはいなかった。それらの欠乏と疲労との年月からは、ただ自分の身が磨《す》りへらされた――虚弱な者よ――とばかり感じていた。そしてもうメルキオルがいない今となっては、二人の息子《
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