日、彼女は初めて、不安げに注意しながら自分の姿を鏡に映してみた。そして自分の不幸の大いさをまだはっきり知りはしなかったが、それでも不幸を予感し始めた。自分の顔だちを一々判断しようとつとめたが、どうもうまく分らなかった。悲しい懸念にとらえられた。深い溜息をついて、装いを少し変えてみた。それでもますます醜くなるばかりだった。そのうえ生憎《あいにく》な考えをいだいて、種々な世話でクリストフをうるさがらした。新しい知人たちにたえず会い、用をしてやろうという、単純な希望に駆られて、始終階段を上り降りし、そのたびごとに不用な品物をもって来、しつこく手伝いをしたがり、そして常に笑いしゃべり叫んでいた。ただ母親の苛立《いらだ》った声に呼び立てられる時だけ、彼女はその熱心と話とを中止した。クリストフは厭《いや》な顔つきをしていた。もしつとめて我慢しなかったら、幾度となく癇癪《かんしゃく》を起こすところだった。彼は二日間辛抱した。三日目には扉《とびら》に錠をおろした。ローザは扉をたたき、呼び声をたて、それと悟り、当惑して降りてゆき、そしてもう二度と始めなかった。彼は彼女に会った時、急ぎの仕事にとりかかって
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