になると、もう彼の言葉は尽きなかった。彼が意外にも憎悪の調子で述べたてる世の喧騒《けんそう》(彼はほとんどクリストフと同じくらい喧騒をにくんでいた)から遠く離れ、暴戻《ぼうれい》から遠ざかり、嘲笑《ちょうしょう》から遠ざかり、毎日人の苦しむ種々の惨《みじ》めな事柄から遠ざかり、世俗を超脱して、信仰のあたたかい確実な寝床から、もはや自分に関係のない遠い世間の不幸を、平和にうちながめるという、神に委《ゆだ》ねた生活の楽しみを、彼はその単調な声を喜びに震わしつつ語った。クリストフはその言葉に耳を傾けながら、そういう信仰の利己的なのを看破した。レオンハルトはそれに気づきかけて、急いで言い訳をした。観照的生活は怠惰な生活ではないと。否実際、人は行為よりも祈祷《きとう》によってさらに多く行動するものである。祈祷がなかったら、世の中はどうなるであろう? 人は他人のために罪を贖《あがな》い、他人の罪過を身に荷《にな》い、おのれの価値を他人に与え、世のために神の前を取りなしてやるのである。
 クリストフは黙って耳を傾けてるうちに、反感が募ってきた。彼はレオンハルトのうちに、その脱却の偽善を感じた。元来彼
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