まなかった。なぜなら、彼の怠惰な性質は、歩行や、会話や、すべて努力を要するようなことを、恐れていたからである。
 クリストフは話を始めるのに困った。なんでもない事柄についてへまな二、三句を発した後、彼は少し乱暴なほど突然に、心にかかっていた問題に飛込んでいった。ほんとうに牧師になる気か、牧師になるのはうれしいのか、とレオンハルトに尋ねた。レオンハルトはまごついて、彼に不安そうな眼つきを向けた。しかし彼になんらの敵意もないことを見てとると、安心した。
「そうです。」と彼は答えた。「そうでなくてどうしてなれましょう!」
「ああ、」とクリストフは言った、「君はほんとに幸福だね!」
 レオンハルトはクリストフの声のうちに、羨望《せんぼう》の気味がこもってるのを感じた。そして心地よくおだてられた。彼はすぐに態度を変え、胸衿《きょうきん》を開き、その顔は輝いた。
「そうです、」と彼は言った、「僕は幸福です。」
 彼は晴れやかになっていた。
「どうしてそんなふうになったんだい?」とクリストフは尋ねた。
 レオンハルトは答える前に、サン・マルタン修道院の歩廊の静かな腰掛に、腰をおろそうと言い出した。そ
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