恋になるだけだ。」
「そんなことはないわ。両方からの恋になるものよ。もんあんたが私に身をささげてくださるなら、私はもっとあんたを愛してあげるわ。そして、ねえ、御自分の方だって考えてごらんなさい。自分は身をささげたからといって、どんなに深く私を愛するかしれないわ、どんなに幸福になるかしれないわ。」
 二人は、ちょっと気をそらして意見の真面目《まじめ》な相違を忘れたのに、満足の笑みをもらしていた。
 彼は笑顔をして、彼女を見守《みまも》った。彼女は心の底では、自分で言ってるとおりに、今すぐにクリストフと別れたくは少しもなかった。彼はしばしば彼女を怒らせ厭がらせはしたが、彼女は彼のような献身がいかに貴《とうと》いかを知っていた。また彼女はだれも他の男を愛してはいなかった。戯れにあんなことを言ったのは、半ばは、それが彼に不愉快であることを知っていたからであり、半ばは、子供がきたない水の中をかき回して面白がるように、曖昧《あいまい》な下品な考えをもてあそぶことが愉快だったからである。彼はそれを知っていた。別に彼女を憎まなかった。しかし彼は、それらの不健全な議論に飽《あ》き、自分が愛しておりまた恐
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