ことはよくあるわ。」
「なに、僕たちにはそんなことが起こるものか。」
「なぜ?」
「なぜって、お前が他の男を愛する時には、もう僕はお前を、ちっとも、もうちっとも、愛さないだろうからさ。」
「先刻《さっき》はわからないと言ってたじゃないの。……それごらんなさい、あんたは私を愛さないんだわ!」
「そうかもしれない。その方がお前のためにはいいよ。」
「というのは?……」
「お前が他の男を愛する時に、もし僕がお前を愛していたら、お前にも、僕にも、またその男にも、始末が悪くなるだろうからさ。」
「そうら!……あんたはもう無茶苦茶よ。では私は、一|生涯《しょうがい》あんたといっしょになってなけりゃならないもんなの?」
「安心おし、お前は自由だよ。いつでも僕と別れたい時には別れるがいいさ。ただ、それは一時の別れじゃなくて、永久のおさらばだ。」
「でも、やはりあんたを愛してるとしたら、この私が。」
「愛し合ってる時には、たがいに一身をささげ合うものなんだ。」
「じゃあ、あんたからささげてちょうだい!」
彼はその利己主義には笑わずにおれなかった。彼女も笑った。
「片方だけの献身は、」と彼は言った、「片
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