み、他人をそうなさんためにできるだけつとめる。時とすると我知らずそうしていることもあって、その悪の欲求にみずから気づくと、憤然としてそれをしりぞける。しかし多くは、その欲求を守り育てる。そして各自の力に従って――ある者は、わずかな親しい仲間内だけでひそかに――ある者は、広く公衆にたいして大規模に――すべて生を有するもの、生を欲するもの、生に価するものを、ことごとく破壊しつくそうとつとめる。偉人や偉大な思想などを、おのれと同じ水準に引下げようと熱中する批評家、恋人を卑《いや》しくすることを喜ぶ娘、この二つは同種類の有害な二匹の畜生である。――ただ後者の方がいくらかかわいい。
アーダはクリストフをやりこめるために、彼を多少堕落させたかったであろう。が事実彼女は、力をもっていなかった。他人を堕落させるについても、もっと知力が必要であった。彼女はそれを感じていた。そして自分の愛がクリストフを害することができないのは、彼女が彼にたいして隠しもってる大きな不平の一つだった。彼女は彼を害しようと望んでるとはみずから認めていなかった。もしできてもおそらくはしなかったであろう。しかしそれを自分の力でで
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