それを受けるに足りること、などを彼女に確信さしてやりたかった。しかしローザはいかめしく口をつぐんで、彼を避けていた。彼は彼女から軽蔑されてることを感じた。
 彼はそれを苦しみまた憤った。自分はその軽蔑《けいべつ》に相当する者でない、という自覚があった。それでも彼はついに狼狽《ろうばい》してしまった。自分に罪があると考えた。そして最も苦々しい非難を、ザビーネのことを考えながら、みずから自分に浴せた。彼はみずから自分を苦しめた。
「嗚呼《ああ》、どうしてこんなはずがあろうか? どうして私はこうなのか?……」
 しかし彼は自分を押し流す流れに抵抗することができなかった。彼は人生は罪悪的なものだと考えた。そして人生を見ないで生きるために眼を閉じた。それほど、生きたく、愛したく、幸福でありたかった。……確かに、彼の愛のうちにはなんら軽蔑《けいべつ》すべきものはなかった。アーダを愛するのは、賢明でなく怜悧《れいり》でなくたいして幸福でさえないかもしれないと、彼はよく知っていた。しかしなんの賤《いや》しい点があったろうか? たとい――(彼は信じまいとつとめていたが)――アーダには大して精神的価値がな
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