女は彼に対抗して、死んだ女を庇護《ひご》するようになった。その女を忘れたことを、彼に許し得なかった。……が嗚呼《ああ》、彼は彼女よりもなおいっそうそのことを考えていたのである! しかし彼女は、熱烈な心の中に二つの感情を同時にいれ得る余地があろうとは、夢にも思わなかった。現在を犠牲にしなければ過去に忠実であり得ないものだと、信じていた。清くて冷やかな彼女は、人生についてもまたクリストフについても、なんらの観念をも得ていなかった。すべてが彼女自身と同じように、純粋で狭小で義務に服従していなければいけないように思われた。彼女は心身ともすべてにおいて謙譲であって、ただ一つの誇りをしかもっていなかった。それは純潔の誇りだった。そして自分についてもまた他人についても、それを要求していた。クリストフがかくまで堕落したことを、彼女は許してやり得なかったし、永久に許してやり得なかったであろう。
クリストフは彼女に、弁解するつもりではないとしても、とにかく話をしようとつとめた。――(純潔無邪気な娘に何を言い得ることがあったろう?)――ただ、自分は彼女の友であること、彼女の尊重を切望してること、自分はまだ
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