てる女が一般に有する忘却の容易さを、彼女はもっていた。
 そして、それにもかかわらず二人は愛し合っていた。たがいに心から愛し合っていた。アーダも愛にかけては、クリストフと同様に誠実だった。その愛は精神の同感の上に立ってはいなかったが、それでもやはり真実のものだった。下等な情熱とはなんらの共通点ももってはいなかった。青春の美しい愛であった。いかにも肉感的なものではあったが、卑俗なものではなかった。なぜならその中ではすべてが若々しかったから。率直でほとんど清廉で、快楽の燃えたつ清純さに洗われた愛だった。アーダはなかなかクリストフほど初心《うぶ》ではなかったとは言え、まだ青春の心と身体とのりっぱな特権をもっていた。その感覚の清新さは、小川のように清澄|溌溂《はつらつ》として、ほとんど純潔の感を与え、何物にも妨げられることがなかった。彼女は普通の生活においては利己的で平凡で不誠実であったが、愛のために、素朴《そぼく》に真実にほとんど善良にさえなっていた。他人のために自己を忘れることにおいて見出される喜びを、彼女は理解するほどになっていた。クリストフはその様子をうれしげにながめた。すると、彼女の
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