ゃいでもいたのだろう。クリストフをながめながら急に笑い出し、音高く接吻《せっぷん》し、近くの人々をもはばからなかった。それにまた近くの人々も、なんら驚いた様子をも見せなかった。

 彼は今では、いつも男女の店員らと連れだって散歩するようになった。彼らの野卑さを彼もあまり好まず、途中ではぐれようとつとめた。しかしアーダは、つむじ曲りの気質から、もう林の中に迷い込もうとしなかった。雨が降る時か、あるいは他の理由で町から出かけられない時には、彼は芝居や博物館や動物園などに彼女を連れていった。なぜなら、彼女はいつも彼といっしょなのを人に見せつけたがったから。彼女はまた、宗教上の祭式にまで彼について来てもらいたがった。しかし彼は、もはや信仰しなくなってからは、教会堂へ足を踏み入れることを欲しなかったほど、ばかばかしく誠実だった。――(他の口実を設けて、会堂のオルガニストの地位を辞してしまっていた。)――しかもまた同時に、みずから識《し》らずしてやはり宗教的だったので、アーダの申し出を不敬なことだと思わずにはいられなかった。
 彼は晩には彼女のところへ出かけていった。同じ家に住んでるミルハがいっし
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