銘を受けた。一同は晩餐御同席の栄を得たいと彼に願った。
 彼はかつてそういう供応に臨んだことがなかった。各人がきそって彼を尊敬した。二人の女が、仲よく彼を奪い合った。二人とも彼の気を迎えた――ミルハは、大仰な様子と狡猾《こうかつ》な眼つきをして、食卓の下で彼に膝頭《ひざがしら》をつきつけながら――アーダは、美しい瞳《ひとみ》や美しい口や、すべてその美しい身体のあらゆる誘惑の種を、厚かましく働かせながら。そしてやや露骨すぎるそういう嬌態《きょうたい》は、クリストフを当惑させ悩ました。それらの大胆な二人の娘は、ふだん家で彼をとり巻いてる無愛想な人々の顔つきとは、まったく別種の観があった。彼はミルハに興味を覚えた。彼女の方がアーダよりも怜悧《れいり》だと推察した。しかしそのひどく阿諛《あゆ》的なやり方と曖昧《あいまい》な微笑とには、好悪《こうお》の入り交った気持を起こさせられた。彼女はアーダから発する喜悦の光輝にたいしては、匹敵し得なかった。そして彼女もよくそれを知っていた。勝負は自分の方が負けだと見てとると、彼女は強《し》いて頑張《がんば》らずに、ただ微笑《ほほえ》みつづけ、気長に好機を待
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