ることができたであろうか。ローザはあとでそれをみずからとがめた。それは一|閃《せん》にすぎなかった。それでも十分だった。彼はそれを見てとった。彼は彼女がぞっとするような眼つきを注いだ。彼女はその中に憎悪《ぞうお》の気持を読みとった。あの女《ひと》が死んだのに彼女が生きてることを、彼は恨んでいた。
粉屋はその馬車を連れて、ザビーネのわずかな道具を取りに来た。クリストフが出稽古《でげいこ》からもどって来て見ると、寝台、箪笥《たんす》、蒲団《ふとん》、衣類、すべて彼女の所有であったものが、すべて彼女のあとに残ってたものが、家の前の街路に並べられていた。彼には見るに堪えない光景であった。彼は急いで通りすぎた。玄関でベルトルトに出会った。ベルトルトは彼を引止めた。
「ああ、あなた。」と彼は言いながらクリストフの手を心こめて握りしめた。「ごいっしょだったあのころには、こんなことになろうとはだれも思いもしませんでしたね。あの時は愉快でした。それでもあの日から、水の上を漕《こ》ぎ回ったあの時から、悪くなりだしたんですよ。だが結局、愚痴をこぼしたってなんの役にもたちません。死んでしまったんです。この次
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