ローザがかわいそうになった。彼女にたいして自分が残酷であったことを――なおこれからも残酷であるだろうことを、彼は考えた。なぜなら彼は彼女を愛していなかったから。彼女が彼を愛してもなんの役にたとう? 憐《あわ》れな娘よ!……彼女は親切だ(それを彼女は先刻証明した)ということを、彼はいたずらに思うばかりだった。彼女の親切さが彼に何になったろう?……彼女の生が彼に何になったろう?……彼は考えた。
「なぜ彼女の方が死ななかったのか、なぜあの女《ひと》の方が生きていないのか?」
彼はまた考えた。
「彼女は生きている。私を愛している。今日か、明日か、生涯のうちには、それを私に言うことができる。――そしてあの女《ひと》、私が愛するただ一人の女、彼女は愛してることを私に告げずに死んでしまった。私の方でも愛してることを彼女に言わなかった。永久に私は彼女がそれを言うのを聞くことがないだろう。永久に彼女は言うことができないだろう……。」
そして最後の夕の思い出が浮かんできた。たがいにうち明けようとしてると、ローザがやって来て二人を妨げたことを、彼は思い出した。そして彼はローザを憎んだ……。
薪《まき》
前へ
次へ
全295ページ中166ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング