ていた。それから飽きてきて、その晩はもう駄目になったと感じながら、立上って家にはいった。クリストフは彼女がいなくなってからようやく、彼女の立去ったことに気づいた。そして自分もすぐ立上り、言い訳もしないで、冷やかな挨拶《あいさつ》を言い捨てて、ふいと行ってしまった。
ローザは街路に一人残って、彼がはいって行った戸をがっかりしながらながめていた。涙が出て来た。彼女は急いで家にはいり、母と口をきかないで済むようにと、足音をたてないで自分の室に上ってゆき、大急ぎで着物をぬぎ、一度寝床にはいって蒲団《ふとん》をかぶると、そのまますすり泣き始めた。彼女は今起こったことを考えてみようとはしなかった。クリストフがザビーネを愛してるかどうか、クリストフとザビーネとが自分を辛抱することができないかどうか、それをみずから尋ねてみなかった。彼女は知っていた、万事終ったことを、もはや生活には意義がなくなったことを、ただ死ぬより外はないことを。
翌朝になると、また考慮の力が永久のいたずらな希望を伴って彼女に帰ってきた。前夜の出来事を一々思い起しながら、それをあれほど重大に考えたのは間違いだったと思い込んだ。も
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