飽き飽きしていた。音楽を好まないでかつ好まないと口に言うことは、ほとんど一つの美徳のようにさえ彼には思えた。彼はまたザビーネに、書物を読むかどうか尋ねた。
 ――読まなかった。第一書物をもっていなかった。
 彼は自分の書物を貸してやろうと言った。
「真面目《まじめ》な御本でしょう?」と彼女は不安そうに尋ねた。
 ――厭《いや》なら、真面目な書物でないのを。詩集を。
 ――でも詩集なら真面目な書物である。
 ――では小説を。
 彼女は口をとがらした。
 ――小説には興味がなかったのか?
 ――否。興味はあった。しかしそれはいつも長すぎた。かつて終りまで読み通す根気がなかった。初めの方を忘れるし、章を飛ばして読むし、もう少しもわからなくなった。すると書物を投げ出してしまうのだった。
 ――なるほど興味を感じてるりっぱな証拠だった!
 ――なあに、嘘《うそ》の話はそれくらいの読み方で沢山《たくさん》だった。書物より他のことに興味を取っておいたのだった。
 ――おそらく芝居へか?
 ――否々。
 ――芝居へは行かなかったのか?
 ――行かなかった。芝居は暑すぎた。あまり人が多すぎた。家にいる方
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