したような様子で、足を軽く組み、両手を膝《ひざ》の上に平たく重ねていた。前方をまっすぐに向いて、何にも耳にしていないらしかった。ルイザはうとうとしていた。そして家にはいった。クリストフはも少し残っていたいと言った。
もう十時になりかけていた。通りはひっそりしていた。しまいまで残っていた近所の人たちも、順々に家へはいっていった。店の戸の閉《しま》る音が聞えた。燈火のさしていたガラス戸がまたたいて見えなくなっていった。まだ一つ二つ残っていたが、それもすぐに暗くなった。しいんとした。……彼らは二人きりだった。たがいに顔を見合わしもせず、息を凝らして、おたがいにそばにいるのも知らないような様子だった。遠い野から、草の刈られた牧場の香《かお》りが漂ってき、隣の露台《バルコニー》から、一|鉢《はち》の丁字の花の匂《にお》いがしてきた。空気はよどんでいた。天の川が流れていた。一本の煙筒の真上に、北斗星が傾いていた。青白い空に星が菊のように花を開いていた。教区の会堂で十一時が鳴ると、その響きに合わして、他の会堂で澄んだ響きや錆《さ》びた響きがくり返され、また家の中で、掛時計の重い音や鳴時計の嗄《しゃ
前へ
次へ
全295ページ中105ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング