ようなものばかりであった。笑うべき土竜《もぐら》の巣だ! 生命が一過すれば、すべては清掃されるのだ……。
 クリストフは精力に満ちあふれながら、時々、破壊し、焼きつくし、粉砕し、息苦しい自分の力を盲目狂暴な行為で飽満させたいという、欲望に駆られた。たいていそういう発作は、突然の精神|弛緩《しかん》に終ることが多かった。彼は涙を流し、地上に身を投出し、大地に抱きついた。それにかじりつき、しがみつき、それを食いたかった。彼は熱気と欲求とに震えていた。
 ある夕方、彼は林の縁を散歩していた。眼は光に酔わされ、頭はふらふらしていて、すべてが変容される狂熱状態にあった。ビロードのような夕の光が、さらに魅惑を添えていた。紅色と黄金色との光線が、栗《くり》の木立の下に漂っていた。燐光《りんこう》のような輝きが、牧場から発してるようだった。空は眼のように悦《よろこ》ばしくやさしかった。横の牧場に、一人の娘が刈草を動かしていた。シャツと短い裳衣《しょうい》だけで、頸《くび》と腕とを露《あら》わにして、草をかき集めては積んでいた。短い鼻、広い頬《ほお》、丸い額、そして髪にハンカチをかぶっていた。その日焼けのした陶器のような皮膚は、夕日に赤く染まって、一日の名残りの光を吸い込んでるかと思われた。
 その娘がクリストフを魅惑した。彼は※[#「木+無」、第3水準1−86−12]《ぶな》の木によりかかって、彼女が林の縁の方へやって来るのをながめていた。彼女は彼を気にかけていなかった。ちょっと彼女は無頓着《むとんじゃく》な眼つきを上げた。日に焼けた顔の中のきつい青い眼を彼は見た。彼女は彼のすぐそばを通りかかった。そして草を拾うためにかがんだ時、半ば開いたシャツの襟《えり》から、頸筋と背筋との金色のむく毛が彼の眼にとまった。彼のうちにみなぎっていた暗い欲望が一時に破裂した。彼は後ろから彼女に飛びつき、その頸と胴とをつかみ、頭を仰向かせ、半ば開いた彼女の口に自分の口を押しつけた。彼はかわききったかさかさの唇《くちびる》に接吻《せっぷん》し、怒って噛《か》みつこうとしてる彼女の歯にぶっつかった。彼の両手はきつい腕や汗にぬれたシャツの上をなで回った。彼女はもがいた。彼はますますきつく抱きしめ、締め殺してしまいたかった。彼女は身をもぎ離し、叫び、唾《つば》を吐き、手で唇を拭《ふ》き、ののしりたてた。彼は手
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