、しかも苦々しい凡庸《ぼんよう》な卑賤《ひせん》なものまでも、喜んで感じ許容し観察し理解したがっていた。――それだけのことで、それらのものにその光明を多少伝うるに足り、クリストフを虚無から救い出すに足りた。その魂は彼に、自分はまったくの孤独ではないと感じさした。そしてこのすべてであることを好みすべてを知ることを好む第二の魂が、あらゆる破壊的な情熱にたいして城壁を築いてくれた。
この魂は、水の上に彼の頭を維持させるには足りたが、独力で水から脱することを彼に得さしはしなかった。彼はまだ、自分を制御し精神を統一することは、なかなかできなかった。いかなる仕事もできなかった。やがて多産的になるべき精神的危機を、彼は通っていた。――未来の全生涯はすでにそこに芽《めぐ》んでいた――しかしその内心の豊富さは、当座の間、狂妄《きょうもう》な行いとなってしか現われなかった。そしてかかる過剰な充実の直接の結果は、最も貧弱な空粗のそれと異ならなかった。クリストフは自分の生活力におぼらされていた。彼のあらゆる力は恐るべき圧力を受けて、あまりに急激に全部同時に生成していた。ただ意志だけがそれほど急激には生長していなかった。そして意志はそれらの怪物の群に脅かされていた。性格はきしり揺らいでいた。他人の眼には、その地震は、その内部の大|漲溢《ちょういつ》は、少しも見えなかった。クリストフ自身にも、意欲し創造し生存するの力がないことだけしか、見えなかった。欲念、本能的衝動、思想などが、あたかも火山地帯から硫黄《いおう》の煙が噴出《ふきだ》すように、相次いで飛び出してきた。そして彼はみずから尋ねた。
「こんどは何が出てくるだろう? 俺はどうなるだろう? いつもこうだろうか、あるいはすっかりおしまいになるだろうか? 俺は取るに足らない者だろうか、いつまでたっても?」
そしてここに、遺伝的な本能が、先人らの悪徳が、現われ出て来た。
彼は飲酒にふけった。
彼はいつも、酒の匂いをさせ、笑い興じ、ぐったりして、家にもどってきた。
憐《あわ》れにもルイザは、彼の様子をながめ、溜息《ためいき》をつき、なんとも言わず、そして祈りをした。
ところがある晩、彼は酒場から出て、町はずれの街道で、数歩前のところに、例の梱《こり》を背負ってるゴットフリート叔父《おじ》のおかしな影を見つけた。数か月来、この小男は土
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