様子を見てとっていた。クリストフの拙劣さや無器用な言葉などがいかに滑稽《こっけい》であるかを、少しも見落さなかった。クリストフは思い切ってアーダを名ざすのも、容易ではなかった。そして彼の描き出すアーダの姿は、あらゆる恋人にどれにでもよくあてはまるようなものだった。でもとにかく彼は自分の恋愛を語った。そして心に満ちてる情愛の波に次第に我を忘れてきた。愛することはいかにいいことであるか、闇夜《やみよ》のような生活の中でその光明に出会わないうちは、いかに自分は惨《みじ》めであったか、深い恋愛がなかったらいかに人生はつまらないものであるか、そういうことを語った。相手は真面目《まじめ》くさって耳を傾けていた。程よく返辞をして、少しも尋ねはしなかった。しかし感動したその握手は、クリストフと同様に感じてることを示した。二人は恋愛と人生とに関して意見を交換した。クリストフはいたってよく了解されたことを喜んだ。二人は眠る前に、親しく抱擁しあった。
クリストフは多くの気がねと遠慮とをもってではあったが、自分の恋愛をエルンストにうち明ける習慣になった。エルンストの慎み深さは彼を安心さしていた。アーダに関する不安をも、彼はそれとなく知らせた。しかし彼はかつて彼女をとがめなかった。自分自身をとがめていた。そして眼に涙を浮かべながら、アーダを失うようなことがあったらもう生きてはおられないだろうと言った。
彼はエルンストのことをアーダに話すのも忘れなかった。そして彼の怜悧《れいり》と美貌《びぼう》とをいつもほめた。
エルンストはアーダに紹介してくれとは、クリストフに進んで申し出なかった。自分の知ってる者はだれもいないと言いながら、寂しそうに室に閉じこもって、出かけることを肯《がえん》じなかった。クリストフは日曜日に、弟が家に残ってるのに、アーダとなお野外遊歩をつづけてるのを、みずからとがめた。それでも、恋人と二人っきりにならないと苦しかった。しかし自分の利己主義もやましかった。そしてエルンストをいっしょに来ないかと誘った。
紹介は、アーダの室の入口で、階段の上でなされた。エルンストとアーダは丁重に挨拶《あいさつ》をかわした。アーダはいつもつきっきりのミルハを従えて、外に出て来た。ミルハはエルンストを見ると、ちょっと驚きの声をたてた。エルンストは微笑《ほほえ》み、近寄ってゆき、ミルハに接吻
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