それを受けるに足りること、などを彼女に確信さしてやりたかった。しかしローザはいかめしく口をつぐんで、彼を避けていた。彼は彼女から軽蔑されてることを感じた。
彼はそれを苦しみまた憤った。自分はその軽蔑《けいべつ》に相当する者でない、という自覚があった。それでも彼はついに狼狽《ろうばい》してしまった。自分に罪があると考えた。そして最も苦々しい非難を、ザビーネのことを考えながら、みずから自分に浴せた。彼はみずから自分を苦しめた。
「嗚呼《ああ》、どうしてこんなはずがあろうか? どうして私はこうなのか?……」
しかし彼は自分を押し流す流れに抵抗することができなかった。彼は人生は罪悪的なものだと考えた。そして人生を見ないで生きるために眼を閉じた。それほど、生きたく、愛したく、幸福でありたかった。……確かに、彼の愛のうちにはなんら軽蔑《けいべつ》すべきものはなかった。アーダを愛するのは、賢明でなく怜悧《れいり》でなくたいして幸福でさえないかもしれないと、彼はよく知っていた。しかしなんの賤《いや》しい点があったろうか? たとい――(彼は信じまいとつとめていたが)――アーダには大して精神的価値がなかったと仮定しても、彼女にたいする彼の愛は、何によってそれだけ純潔の度が少ないと言えたであろうか? 愛は愛する者のうちにあるので、愛される者のうちにあるのではない。純潔な者にあっては、すべてが純潔だ。強壮な者や健全な者にあっては、すべてが純潔だ。愛は、ある種の小鳥をその最も美しい色彩で飾りたてるものであり、正直な魂から、その最も高尚なものを引出してくる。愛人にふさわしくないものは何一つ示したくないという欲求から、人はもはや、愛が刻んだ美しい像に調和する思想や行為にしか、喜びを見出さなくなる。そして魂が浴する青春の泉は、力と喜悦との潔《きよ》い光輝は、麗わしくかつ有益であって、人の心をますます偉大ならしむるものである。
知友たちから誤解されてることは、彼の心に憂苦を満さした。しかし最も重大な憂苦は母親までが心配し始めたことであった。
この善良な婦人は、フォーゲル一家の偏狭な主義を共に奉じてはいなかった。彼女はあまり目近に真の悲しみを見てきたので、他の悲しみを想像し出そうとはしなかった。自分を卑下し、生活に困憊《こんぱい》し、生活からたいした喜びも受けず、生活に喜びを求めることはさらに
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