ザビーネは窓のそばにもどって、窓ガラスに顔を押しあてた。外の景色に見とれてるふうをした。
「さよなら。」とクリストフは途方にくれて言った。
彼女は頭も動かさなかった。そしてごく低く言った。
「さよなら。」
日曜の午後は、家の中ががらんとしていた。皆が教会堂へ行って、晩課を聞いていた。ザビーネは少しも行かなかった。ある時、美しい鐘の音がしきりに呼びたてるのに、彼女は小さな庭の戸の前にすわっていたが、それを見つけたクリストフは、冗談に彼女を責めてやった。彼女は同じ冗談の調子で、ミサだけが義務的なものであると答えた。晩課はそうではなかった。それであまり熱心になりすぎるのは無駄なことだし、不謹慎なことでさえあった。そして神は自分を恨むどころかかえってありがたがっていられるだろうと、彼女は好んで考えていた。
「あなたは自分にかたどって神をこしらえてるんです。」とクリストフは言った。
「神様になったら、私はさぞ退屈するでしょう。」と彼女は思い込んだ調子で言った。
「あなたが神になったら、あまり世間のことにはかかわらないでしょうね。」
「私が神様にお願いしたいことは、私を構ってくださらないようにということだけですわ。」
「そんならいくら願ったって悪いことになりようはないでしょう。」とクリストフは言った。
「しッ!」とザビーネは叫んだ、「不信心なことを言っていますわ。」
「神があなたに似ていると言っても、それが不信心なことだとは私は思いません。神はきっと喜ばれるに違いありません。」
「もうよしてくださいよ!」とザビーネは言った。半ば笑い半ば気にしていた。神様が怒りはすまいかと気づかい始めていた。彼女は急いで話題を変えた。
「それに、」と彼女は言った、「気楽に庭をながめることができるのも、一週間のうちに今だけですわ。」
「そうです。」とクリストフは言った。「あの人たちがいませんから。」
二人は顔を見合った。
「ほんとに静かですこと!」とザビーネは言った。「めったにないことですわ……なんだか変な気分がしますわ……。」
「ああ、」とにわかにクリストフは憤然と叫んだ、「あいつを絞め殺してやりたいと幾度思ったかしれない!」
だれのことを言ってるのか説明するに及ばなかった。
「そして他の人は?」とザビーネは快活に尋ねた。
「なるほど、」とクリストフはがっかりして言った、「ローザもいる
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