とくに手紙の中で、二人のそういう感情は高まっていた。手紙の中では事実から裏切られる恐れがなかった。何物も彼らの幻影をそこなうものはなかったし、彼らを気後《きおく》れさせるものはなかった。今では一週に二、三度、熱烈な叙情味の文体で手紙を書き合っていた。現実の出来事を語ることはほとんどなかった。突然に感激と絶望との間を移り変わる黙示録的な調子で、重大な問題をこねまわしていた。彼らはたがいに、「わが幸福、わが希望、わが愛人、わが身自身、」などと呼んでいた。
「魂」という言葉を恐ろしく使いちらした。宿命の悲しさを悲壮な色でいろどっていた。友の生涯に運命の変転を投げ入れて心痛していた。
「わが愛よ、ぼくは君に心配をかけるのがつらい。」とクリストフは書き送った。「君が苦しむのはぼくにはたえられない。苦しんではいけない[#「苦しんではいけない」に傍点]、ぼくはそれを欲しない[#「ぼくはそれを欲しない」に傍点]。(彼は紙が破《やぶ》けるほどの太い傍線を右の言葉にほどこした。)君が苦しむなら、ぼくはどこに生きる力を見出せよう! ぼくの幸福は君のうちにしかない。どうか仕合せであってくれ! 苦しみは皆
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