話をした。話の種を見つけるのにたいへん苦しんだ。何にも話し合うことがないと気づくのを恐れていた。オットーは学校で得た知識を並べたてた。クリストフは音楽上の作品やヴァイオリンのひき方について、専門的な説明をやりだした。彼らはたがいに退屈し合っていた。たがいに話を聞きながら退屈しきっていた。そして話がとぎれるのを心配しながらやたらに話しつづけた。沈黙の淵《ふち》が開けるとぞっとしたからである。オットーは泣きたかった。クリストフはオットーを置きざりにして逃げ出そうとまでした。それほど彼は恥ずかしかったし退屈だった。
ふたたび汽車に乗る一時間ばかり前に、ようやく彼らの心は解けたのだった。林の奥で犬が吠《ほ》えていた。勝手に獲物を追いたてていた。クリストフはその通り道に隠れて追われてる獣を見ようと言い出した。二人は茂みの中に駆け込んだ。犬は遠のいたり近寄ったりした。二人は右へ行ったり、左へ行ったり、進んだり、後に引返したりした。吠声はますます激しくなった。犬はいらだちのあまり息もつまるばかりに、屠殺《とさつ》の叫び声をあげていた。犬は二人の方へ近寄ってきた。クリストフとオットーとは、小道の轍《
前へ
次へ
全221ページ中92ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング