めなかった。しかし間もなく、隣席の少年からたえず観察されてるのを感じて、彼も向うの顔を見てやった。薔薇《ばら》色の豊頬《ほうきょう》をした金髪の少年で、頭髪を横の方できれいに分け、唇《くちびる》のあたりには産毛《うぶげ》の影が見えていた。一個の紳士らしく見せかけようとつとめていたが、大きな坊ちゃんらしい誠実な顔付をしていた。とくに念を入れた服装《みなり》をしていて、フランネルの服、派手な手袋、白の半靴《はんぐつ》、薄青の襟飾《えりかざり》を結《ゆわ》えていた。手には小さな鞭《むち》をもっていた。そして牝鶏《めんどり》のように首をつんとさして、ふり向きもせず横目で、クリストフをじろじろ眺めていた。やがてクリストフの方から眺められると、耳まで真赤になり、ポケットから新聞を引出し、もったいらしく読み耽《ふけ》ってるふりをした。しかし数分たつと、クリストフの帽子が落ちたのを、急いで拾い上げてやった。クリストフはあまり丁寧《ていねい》にされるのに驚いて、ふたたびその少年を眺めた。少年はまた真赤になった。クリストフは冷やかに礼を述べた。なぜなら彼は、そういうわざとらしい親切を好まなかったし、人から
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