ったので、彼の力はあたかも岩の間の急湍《きゅうたん》のように、それへ飛びかかっていった。厳密な範囲内に努力を集中することは、芸術にとってはいい規律である。この意味において、悲惨はただに思想の主人たるばかりではなく、形式の主人であるともいうことができる。悲惨は肉体へと同じく精神へも、節制を教える。時間が制限され言葉が限定されてる時には、人は余分のことを少しも言わず、物の精髄をしか考えない習慣になる。かくて、生きるための時間が少ないだけに、倍加した生き方をする。
そういうことがクリストフの上に起こった。彼は束縛のもとにあって、自由の価値を十分に知った。そして無益な行ないや言葉によって少しも貴重な時間を浪費しなかった。真面目《まじめ》ではあるがしかし無選択な思想のおもむくがままに、ごたごたと饒多《じょうた》に書きちらす癖のある、彼の生来の傾向は、なるべくわずかな時間になるべく多く仕上げるのを余儀なくされることに、その矯正物《きょうせいぶつ》を見出した。何物も――教師の教えも傑作の模範も、それほど多くの影響を彼の芸術的精神的発達に及ぼしたものはなかった。彼はようやく性格の形造られる年ごろに、
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