》さで、彼の手に金貨を握らして帰してやる時に、彼はひどく屈辱を受けた。貧乏なのが、貧乏らしく取扱われるのが、悲しかった。ある晩、家へ帰る途中、もらって来た金を非常に重苦しく感じて、通りがかりにある穴倉の風窓へそれを投げ込んでしまった。けれどもすぐ後で、賤《いや》しい真似《まね》をしてそれをまた拾い取らなければならなかった。なぜなら、家では肉屋に数か月分の借りがあったから。
 家の人々は彼のそういう自尊心の苦しみにほとんど気づかなかった。彼らは彼にたいする大公爵の愛顧に歎喜[#「歎喜」はママ]していた。人のいいルイザは、宮廷における貴顕社会の夜会に出ることが、息子にとってはこの上もなく晴れやかなことだと思っていた。メルキオルは、それを友人ら相手にたえず自慢話の種としていた。しかし最も嬉しがっているのは祖父だった。独立独歩と、不平家気質と、偉大にたいする軽蔑とを、彼はよく装っていたけれども、しかも富や、権勢や、名誉や、社会的優越にたいして、質朴《しつぼく》な賛嘆の情をもっていた。彼が無類の誇りとなすところのものは、そういう優越を有してる人々に孫が近づくのを見ることだった。あたかもその光栄が
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