を震わしていた。メルキオルもまた震えだした。それから腰を降ろして、両手に顔を隠した。二人の子供は、鋭い叫び声をたてて逃げてしまっていた。騒動につづいて沈黙が落ちてきた。メルキオルは訳のわからぬことをぶつぶつ言っていた。クリストフは壁にぴったり身を寄せ、歯をくいしばりながら、じっと父をにらみつけてやめなかった。メルキオルはみずから自分をとがめ始めた。
「俺は泥坊だ! 家の者から剥《は》ぎ取る。子供たちからは軽蔑される。いっそ死んだ方がましだ。」
 彼が愚痴を言い終えた時、クリストフは身動きもしないで、きびしい声で尋ねた。
「ピアノはどこにあるんだい?」
「ウォルムゼルのところだ。」とメルキオルは彼の方を見ることもできずに言った。
 クリストフは一歩進んで言った。
「金は?」
 メルキオルはすっかり気圧《けお》されて、ポケットから金を取出し、それを息子に渡した。クリストフは扉の方へ進んでいった。メルキオルは彼を呼んだ。
「クリストフ!」
 クリストフは立止まった。メルキオルは震え声で言った。
「クリストフ……おれを蔑《さげす》むなよ!」
 クリストフは彼の首に飛びついて、すすり泣いた。

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