きけなかった。しかし最初の一言で彼女は了解した。顔色を失い、手の物を取り落し、なんとも言わないで、家の外へ駆け出していった。
クリストフは一人残って、戸棚にとりすがっていた。彼はまだ泣きつづけていた。弟どもは遊びに耽っていた。彼にはどういうことが起こったのかはっきりわからなかった。祖父のことを考えてはいなかった。先刻見た恐ろしいありさまのことを考えていた。そしてまた無理やりに、それらのさまをふたたび見せられはすまいか、あの処へ連れもどされはすまいかと、びくびくしていた。
そして、夕方になって、他の子供たちが、家の中であらゆる悪戯《いたずら》をして倦《あ》いてしまい、退屈で腹がすいたと駄々《だだ》をこねだしたころ、果して、ルイザはあわただしくもどって来、子供らの手を取り、祖父の家へ連れて行った。彼女はごく早く歩いた。エルンストとロドルフとは、いつもの癖でぐずぐず言おうとした。しかしルイザは黙ってるようにと言いつけた。その言葉の調子に、彼らは黙ってしまった。本能的に恐怖を感じた。家にはいりかけた時、彼らは泣き出した。まだすっかり夜にはなっていなかった。夕日の名残《なご》りの光が、扉の押
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