されないほどの豊富な喜悦。彼らは生きているのか? 夢みているのか? 確かに彼らは夢みているのだ。実生活と彼らの夢との間にはなんらの共通点も存しない。なんらの共通点も……ただ、その幻惑的な時期において、彼ら自身が一の夢にすぎないということ以外には。彼らの存在は恋の息吹《いぶ》きに融け去ってしまったのである。

 ケリッヒ夫人は間もなく、二人の子供の素振りに気づいた。二人は巧みにやってるつもりだったが、実はごく拙劣《せつれつ》だった。ある日、ミンナが不都合なほどクリストフに近寄って話していると、不意に母がはいって来た。扉の音を聞いて、二人はへたにまごつき、あわてて飛び退《の》いた。がその時からミンナは、感づかれたのではないかと思った。しかしケリッヒ夫人は何にも気づかないふりをしていた。ミンナはかえって残念なくらいだった。彼女は母と争いたかった。それの方がいっそう小説的だったろうから。
 母は彼女に争う機会をなかなか与えようとしなかった。そのことについて気をもむにはあまりに聡明《そうめい》だった。しかしミンナの前で、クリストフのことを皮肉な調子で話して、そのおかしな点を容赦もなく嘲《あざけ》
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