あった。
 この無邪気な肉感的なドイツの少女は、不思議な遊戯を心得ていた。彼女は麦粉を敷いた上に指輪をのせた。二人は代わる代わる、鼻に粉がつかないようにして、その指輪を歯でくわえ上げるのだった。あるいは、彼女はビスケットに糸を通した。そして二人は糸の両端を口にくわえ、糸を食べながら、できるだけ早くビスケットに噛みつくのだった。二人の顔は近寄り、息は交じり、唇は触れ合った。二人はわざとらしく笑っていた。手は冷たくなっていた。クリストフは、向うに噛みついてやり、痛い目に会わしてやりたかった。が突然彼は後ろに飛び退《さが》った。彼女は強《し》いて笑いつづけた。二人はたがいに顔をそむけ、なんでもないふうを装っていたが、でもそっと眼を見合っていた。
 それらの怪しい遊びは、二人にとって不安な魅力をもっていた。クリストフはそれを恐れて、ケリッヒ夫人かだれかがいっしょにいる窮屈な集まりの方を好んだ。どんな邪魔な人がいようと、二人の恋の心の対話を妨げることはできなかった。拘束はかえってその対話を、いっそう熱烈なものとしいっそう楽しいものとした。そういう時には、すべてが二人の間では限りなく価値あるものと
前へ 次へ
全221ページ中180ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング