も誠実ではあったが、やはりある役割をつとめていた。彼らは将来の生活を話し合った。彼は自分の貧困やつまらぬ身分を嘆いた。破女は鷹揚《おうよう》なふりをして、みずからその鷹揚さを楽しんだ。金銭には無頓着《むとんじゃく》だと自分で考えていた。そして実際無頓着だった。金に不自由をしたことがないので、金銭というものをほんとうによくは知っていなかったのである。彼は大芸術家になると誓った。彼女はそれをあたかも小説のように面白い美しいことだと思った。彼女は真の恋人のように振舞うのを義務だと信じた。詩を読んで感傷的になった。彼もその気分に感染した。彼は自分の服装《みなり》に心を配りだした。滑稽《こっけい》だった。口のきき方にも注意しだした。気障《きざ》だった。ケリッヒ夫人は笑いながら彼を見守って、どうしてそんな馬鹿げたふりをするようになったか怪しんでいた。
しかし二人には、えもいえぬ詩的な瞬間があった。やや蒼《あお》ざめた日々のさなかに、霧を通して日の光がさすように、その瞬間が突然輝き出すのであった。それはある眼付や身振りや言葉の瞬間で、なんの意味もないものではあるが、二人を幸福のうちに包み込むのだっ
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